『 あたしんち ・ ぼくんち ― (1) ― 』
ふんふんふ〜〜〜〜ん♪ るらるらるらら〜〜〜ぁ〜〜♪
ご機嫌ちゃんな歌声が坂道を登ってくる。
カッチャ カッチャ カッチャ ・・・! ランドセルの音もしてそのうちに
タッタッタッ ・・・ タタタタ 〜〜〜 !! 威勢のよい足音がきこえてきて −
「 ただいまァ〜〜〜〜〜 !! 」
玄関のドアが開くのと同時に元気な声が家中にひびく。
岬のこの家に住む島村さんちの 長女、すぴか嬢 のご帰還である。
「 おお お帰り すぴか ・・・ 」
奥からのんびりした声が聞こえて すぴかがスニーカーを脱いでいる間に
ぱった ぱった ぱった ・・・ ゆっくりしたスリッパの音と一緒に
白髪・白髭のご老人が迎えにでてきてくれた。
「 おじ〜〜ちゃま〜〜〜 ただいま〜〜〜 」
「 お帰り。 おや? 相棒はどうしたね。 」
「 しらな〜い しんゆう君と のったくった歩いてたから抜かしてきちゃった♪ 」
「 ほう? それではおっつけかえってくるな。 まあいつものことじゃがな〜
オヤツはどうする? すばるを待つかい。 」
「 先にたべる! ねえねえ おじいちゃま〜〜 オヤツ なに?? 」
「 ふぉふぉ・・・・ 母さんの蒸しパンじゃよ。 すぐに温めるから手を洗って 」
「 は〜〜〜〜い!! ついでにガラガラ〜〜〜 もね! 」
ぱぴゅ! っと擬音付? で 小三の娘は亜麻色のお下げをなびかせ バスルームに駆けていった。
「 〜〜〜〜 ・・・ おいし〜〜かったぁ〜〜♪ 」
ことん。 すぴかは満足のため息と一緒にマグ・カップを置いた。
「 おじいちゃまのミルク・ティって〜〜 あまくなくてさいこ〜〜〜 」
「 おお そうか そうか。 そりゃよかったのう 」
「 お母さんってばさ 何回もおさとういれないで!っていってもいっつもちょこっとあまいんだ〜〜
むしぱん もおいしいかったぁ〜〜 」
「 お前の母さんの蒸しパンは ほんに美味しいなあ 」
「 ね〜〜〜 今日のはおいもが入っててとくべつおいしい〜〜 おじいちゃまもすき? 」
「 ああ 大好きさ。 お前の父さんもお気にいりだよ。 」
「 お父さんはさ〜〜〜 お母さんが作ったモノならなんだっていいのぉ 」
「 あはは そうじゃなあ・・・ 」
「 そうだよ〜 あ ・・・ おじいちゃま ぱそこん、使ってたの? 」
すぴかはリビングにある家族共用のPCを指した。
「 うん? ・・・ ああ 盆栽倶楽部 の人にメールを出していたのさ。 」
「 ふうん? ね アタシもつかっていい? 」
「 おお いいとも。 何を見たいのかな? 動画で漫画を配信しているかもしれんぞ。 」
博士は自身の研究・仕事関係は 専用のPCを駆使するが < 岬の家のご隠居さん >
として活動する時には オープンに家族共有PCを使っている。
盆栽愛好会 やら 碁会所仲間との交友・・と活発に地元の人達と交流しているのだ。
子供たちは そんな姿には幼いころから見慣れていた。
「 う〜〜ん あのね、 あのね。 ゆうべね〜 おとうさんとみた にゃんこのページが
見たいの。 」
「 にゃんこのページ? 」
「 うん。 母さんにゃんこと子供にゃんこのはなし。 」
「 ??? ちょっと閲覧履歴を探してみるか ・・・ 」
「 うん。 すっご〜〜くかわいいの〜〜 」
「 ふむふむ・・・ あ〜〜 これかな? 」
博士は後ろでぴんこぴんこ跳んでいる孫娘にモニターを見せる。
「 わ・・・ あ ! それ〜〜〜〜 」
「 ほい それじゃゆっくりご覧。 こうやれば下にスクロールして行くぞ。 」
「 うん 知ってるよ〜 ありがとう、おじいちゃま。 」
「 観終わったら教えておくれ。 」
分厚い書籍をもって博士はいつものお気に入りの肘掛椅子に収まった。
「 は〜い ・・・ えっと ・・・・ あ ここからだ。
ねこちゃんたち かわいい〜〜〜〜 母さんにゃんこ、びじんさんだなあ〜〜
あはは・・・弟にゃんこはすばるだね〜〜 このお転婆さんのコはアタシ。もうばっちり♪ 」
すぴかは夢中になってモニターを眺めている。
「 お父さんもさ〜〜〜 これってウチのまんま だよねえ〜〜 って言ってたし〜
・・・ ・・・・ え ??? 『 かあさんは
アタシたちを生んでくれた母さん じゃないから。 』 ― え? 」
「 ・・・ ここ ゆうべも あった??? 」
すぴかの目はモニターの前で固まった。 何回読み直しても同じだ。
・・・ってことは?
ウチと同じだよねえ〜〜 ・・・ ウチと ・・・
って お父さんの声がわんわんすぴかの心の中でコダマしていた。
― コトの起こりは 昨夜の晩御飯の後のこと。
お父さんがお仕事から早く帰ってこれたので 家族全員で美味しくて楽しい晩御飯の
テ―ブルを囲んだ。
すぴかもすばるも も〜〜〜 お腹ぽんぽこりんになるまで食べて
デザートのオレンジ・ジュレ ( お父さんは みかんゼリー って言った ) も
最高〜〜って ご機嫌ちゃんだ。
食後は 皆リビングで過ごす。 このウチの習慣なのだ。
TVは一応ついているけど 皆あんまり見ない。
おじいちゃまはいつも楽しくて面白いお話をしてくれるし 今日はお父さんがいるので
すぴかもすばるもお父さんの側にひっついていた。
お父さんはいつもお仕事で帰りが遅いのだ。
「 ・・・ くすん ・・・ ううう
」
「 それでね〜〜〜 ?? あれ おかあさ〜〜ん どうしたの?? 」
すぴかが一番始めに気がついた。
「 おか〜〜さん〜〜〜 」
すばるはいつもののんびり屋はどこへやら すた!っと駆けてゆきお母さんのお膝に
縋り付いている。
二人のお母さんは PCのモニターの前でな ― 涙をこぼしているのだ!!
「 あれえ ? どうかしたのかい? 」
お父さんまで ソファから腰を浮かせた。
「 ・・・ これ ・・・・ この記事がね ・・・ あんまりステキで ・・・ 」
ぶ〜〜〜〜・・・! お母さんはティッシュで盛大にハナをかんだ。
「 あ 〜〜 ・・ 感動したって? どれ どの話? 」
「 これよ ・・・ ほら 」
「 ・・・ うん? 猫?? ふうん カワイイねえ ・・・ 」
「 そうなんだけどもね、 この子たちはね〜 」
「 お母さん〜〜〜 わあ ねこちゃんだあ〜 かっわいい♪ 」
「 ね〜〜 ほら この子がお姉ちゃんで こっちが弟だって。 」
「 にゃああ〜〜〜〜ん♪ 」
「 すばる、どいて。 みえない〜〜〜 」
「 僕がさきにいたもん 」
「 アタシもしゃしんがみたいの〜〜 どいて。 」
「 や〜〜〜! 」
「 どいてってば〜〜 えいっ! 」
「 わ〜〜 ・・・ おか〜〜さ〜〜ん すぴかがぶった〜〜 」
「 ぶってないも〜〜ん 押しただけだも〜〜ん 」
「 ぶったもん! えい・・・って ここ 」
「 ぶ〜〜〜 ぶってません〜〜〜 」
「 ぶった 」
「 ぶってないもん! 」
「 こらあ〜〜 そこですとっぷ〜〜 二人とも。 」
お父さんの大きな手が二人の間にはいってきた。
「 ほら・・・ この猫さんたち、見てごらん? こんなに仲良しじゃないか 」
「 おてんばなアタシ だって〜〜♪ この姉さんにゃんこ アタシみたい〜〜 」
「 ははは そうだねえ・・・ この美人のお母さん猫に似て コドモたちはカワイイねえ 」
「 あはは・・・ この甘ったれにゃんこ、すばるそっくり! 」
「 ・・・ ! ち ちがわい〜〜 僕、あまったれじゃないもん〜〜 」
「 へ〜〜〜 そう? す〜ぐにお母さんにひっつきにゆくじゃ〜ん 」
「 ひ ひっついてなんか ない〜〜 」
「 ぶっぶ〜〜〜 ひっついてま〜〜す 」
「 ほ〜ら ケンカするなってば。 ほら〜 一緒にこれ、見ようよ。 」
「 うん お父さん♪ わ〜〜〜 すっご〜〜い このにゃんこ・・・
ろーぷにぶらさがってる〜〜〜 」
「 お ホントだ・・・ あはは すぴか、こりゃ ますますそっくりだなあ 」
「 うん♪ ねえ お父さん、 このお母さんにゃんこ、すご〜〜くびじんさんだね! 」
「 ああ 美人さんだ。 これもウチとそっくりだよ。 」
「 ね〜〜♪ ね〜〜〜 おかあさん ? 」
「 ・・・ うふふ ・・・ もう〜〜 何を言ってるの・・・
ああ でもいいお話だわ ・・・ 皆なんて愛しくて暖かいのかしら・・・ 」
お母さんはまたまたティッシュでハナかんだり 涙ふいたりしている。
その < お話 > とは とある小さな漁村に住み着いている仲良しのら猫親子の話で
若くて美人のお母さん猫が 惜しみない愛情を仔猫たちに注いでいる。
お転婆姉猫と甘えんぼうの弟猫 は優しい母さんに見守られすくすく育ち
地元の漁師さん達からも 大きなお魚をもらったり可愛がられている という。
実際、仔猫たちは美人の母猫に似て可愛い顔立ちだ。
シアワセ家族のお話で すぴかもすばるも いいな〜 かわいいな〜〜って思った。
「 ほんとうに ・・・ こんなことって あるのねえ ・・・猫なのに・・・ 」
「 ああ そうだね。 このチビ猫たちは本当にシアワセだよなあ ・・・
地元の人たちも暖かいね。 」
「 ええ ええ ・・・ いい方々に見守られているのね 」
「 ああ いいねえ・・・ふふふ ほっんと、ウチみたいだね、ウチと同じだね。 」
「 ああ ・・・ もう涙が止まらないわ 」
「 暖かい涙なら いいさ 」
「 そうねえ ・・・ 」
「 そうさ。 ・・・ まったくの他人を自分の子供みたいに愛して育てているんだねえ 」
「 ・・・ 猫ちゃんがねえ ・・・ ああ また涙が ・・・・ 」
お父さんとお母さんは なにかしんみりおしゃべりしていたけれど
すぴか達はおじいちゃまと < ようかいうぉっち > のハナシに夢中になっていた。
― だから <ウチとそっくり> という言葉だけがアタマに残っていたのだ。
「 すぴかや ・・・ もういいかな? 」
「 ― え? 」
おじいちゃまに声をかけられ すぴかははっとした。
じ〜〜〜っとモニターを見つめていたのだ ― あの美人の母猫と仔猫たちを。
「 猫さん達のハナシは読めたかい。 」
「 ・・・ あ う うん。 読んだ。 」
「 それはよかったなあ。 なにか他にも見たいものがあるかな?
それともゲームとかやりたいのかな。 」
「 ・・・ あ もういいや。 おじいちゃま ありがとう〜〜 」
「 そうかい? それじゃあ ここはお終いにするぞ。 」
「 ウン。 ・・・ アタシ しゅくだい、しなくちゃ 」
「 おお そうか。 ここにもっておいで。 おっつけ相棒も帰ってくるじゃろうしな。 」
「 は〜〜い 」
― ばたん。 ただいまあ〜〜〜〜
玄関のドアがの〜んびり開いて もっとの〜〜んびりした声が聞こえた。
「 お ・・・ ウワサをすれば。 おかえり〜〜 すばるや 」
「 ただいまあ〜〜〜 おじいちゃま〜〜 」
「 さ ランドセルを置いて手を洗っておいで。 美味しいオヤツがあるぞ。 」
「 わ〜〜〜い♪ あ すぴかは? 」
「 相棒はもうとっくに帰ってきてオヤツも食べたよ。 」
「 そっか〜〜 一緒に校門でたんだけどなあ すぴかってば走っていっちゃったんだ〜
」
すばるはいつまで〜〜も玄関でおしゃべりをしている。
すばる〜〜〜 ちょっとぉ〜〜〜 アンタにも聞きたいんだからあ〜〜
すぴかはじれじれしていたけれど ついに ・・・
― バタン! 玄関に飛び出した。
「 すばる! 早くオヤツ食べなよっ ! 」
「 ? あ〜〜 すぴか。 オヤツ なに 」
「 お母さんのむしぱん。 」
「 それなら早くしなくてもへいき。 僕 アツいのヤだから 〜 ふんふんふん♪ 」
すばるはハナウタを歌いつつ ぱったぱったぱった・・・二階の子供部屋い上がっていった。
「 − え なに? 」
ランドセルを置いて、手を洗い ・・・ や〜〜〜っとすばるがオヤツの前の座った時
蒸しパンはすっかり冷えて ( 温め直さないで、とすばるは言った )
ミルク・ティ− は、これは博士がチン! し直してくれた。
そこにすばるはお砂糖を 一杯 二杯 ・・・三杯も! いれた。
「 だから! アタシたちのお母さんって ホントのお母さん だとおもう?? 」
ずい・・・っとすぴかは相棒の側に寄った。
「 なんでそんなコト きくの〜 あったり前じゃん 」
「 けど! 昨夜 お父さんさ < ウチとそっくり > って言ってたにゃんこの話
あんたもう一回読んだ? 」
「 にゃんこの? ・・・ あ〜〜 あのきれいな母さんにゃんこのハナシ? 」
「 そ! あのにゃんこ家族のこと、お父さんってばウチと同じって言ってたじゃん?
でもね! あの母さんにゃんこ は チビにゃん達のホントのお母さんじゃないんだって。 」
「 ふ〜〜ん? でもちゃんとおかあさん やってたじゃん 」
「 そ〜〜〜 なんだよ! だから ウチとそっくり ってっことはぁ〜〜
ウチも お母さんはアタシたちを産んでくれたお母さんじゃない ってことじゃん? 」
「 ・・・ そ〜〜かなあ〜〜〜 ??? 」
「 そうだよ! ・・・ ってか そうかも〜〜って思って すばるにもきいてるの! 」
「 え〜〜〜 そんなのヘンだよ〜〜 」
「 え ・・・ ヘン? お母さんがアタシたちのホントのお母さんじゃないかもってことが? 」
「 だってさあ〜 僕たちのお母さんは僕たちのお母さんじゃん〜〜 」
「 ・・・ そう だよねえ ・・・?? 」
「 あっはっは〜〜〜 ヘンなすぴか〜〜 おっかし〜〜〜 」
すばるは蒸しパンを頬張って 大笑いしている。
「 な なんでよ! アンタ、お口にモノをいれたまましゃべったり笑ったり・・・きんし、だよ! 」
「 あっはっは〜〜〜の は! すぴかってばお母さんと同じ髪と目の色だし〜
僕、 < お父さんのしゅくしょうばん ね > ってよく言われるじゃん〜〜 」
「 け ど ! あのチビにゃん達・・・ 母さんにゃんことにてるカワイイさんじゃん?
けど あの母さんはホントの母さんじゃないんだよ? 」
「 あ〜〜 そうなんだ ? 」
「 だからっ! ウチも ・・・? 」
「 僕はあ〜〜 反対に一票! じゃね〜〜〜〜 」
「 あ すばる! 遊びにゆくの? 」
「 ぶっぶ〜〜〜 残念でした〜 そろばん に行く時間で〜す。 わたなべクンと待ち合わせ。 」
すばるは悠々とミルク・ティを飲み干すと 悠然とリビングを出ていった。
「 ・・・あ〜〜〜 おとうさん、そっくり〜〜 ・・・ すばるは・・・
お父さんとお母さんの コ かもなあ〜〜〜 でも アタシは ― 」
15分くらいあと、茶色のクセっ毛がひょんひょん門から出てゆくのを すぴかは
ぼんやりと眺めていた。
「 おや? すぴか ・・・ 今日はバレエのレッスンじゃなかったのかい。 」
窓の側でぼ〜〜っとしている孫娘に 博士はすこし驚いた。
「 ・・・ え? あ〜〜〜〜 いっけな〜〜〜い !! ちこくぅ〜〜〜 」
がばっと飛び上がるとそのまますぴかは子供部屋に駆けだしていった。
「 ふん? なにかあったのかのう・・・ いつも一番最初に行くんだ〜って張り切って
おるのに ・・・ どれ レスキュー隊になるかの。 」
博士は にこにこしつつ立ち上がった。
数分後 ― だだだだだ −−−− 階段から雪崩みたいな音がして
ばん! 玄関のドアが開き〜〜〜
「 おじ〜〜〜ちゃま〜〜〜 おけいこ、いってきます〜〜〜〜 !! 」
すぴかの大声が家中にひびき・・・
たたたたた・・・っ! 門まで駆けていったら。
「 ほい すぴか。 後ろに乗りなさい。 」
「 お お おじいちゃま〜〜〜〜 」
門の外で博士が自転車に乗って 笑っていた。
「 早く! ぶっとばして行けば 十分に間に合うじゃろうよ。 」
「 え ・・・ で で でも〜〜〜 この坂 ・・・ 」
「 ふふふ ワシの腕を舐めちゃいかんぞ。 このくらいの坂 平気の平左・・・・
朝飯前ってヤツだ。 さ ほらほらはやく! 後ろに乗りなさい。 」
「 え う う うん ・・・ 」
おじいちゃまの言うコトだから信じる! と すぴかは自転車の後ろに乗った。
「 いいよ〜〜〜 おじいちゃま 」
「 よし。 しっかりつかまっておるのじゃぞ。 」
「 う うん ・・・ 」
キ ・・・ ガタン キ〜〜〜〜〜 ・・・
微妙〜〜な音をたてて 二人乗りの自転車は 発進した。
・・・ う わぁ 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ・・・・・・・・ ・・・・
― 数分後。 どこにでもある・普通の自転車は バレエ教室 の前に到着していた。
「 ほい ついたぞ〜〜 おお まだあと15分あるよ、すぴか。 」
「 ・・・ あ う うん ・・・ 」
「 ほらほら 早くおりて! 支度しなさい。 」
「 う うん ・・・ 」
すぴかはようやっともぞもぞ動き自転車から降りた。
「 じゃあな 頑張っておいで。 あ 帰りは迎えに 」
「 あ いい! アタシ〜〜 一人で帰れるから!! 」
「 そうか? それじゃ 気をつけて帰ってくるのじゃぞ。 」
「 ウン。 おじいちゃまも気をつけて帰ってね 」
「 ほっほ・・・ ありがとうよ、 それじゃあな〜〜〜 」
「 ウン。 さんきゅ〜〜〜 おじいちゃま〜〜 」
キ ィ 〜〜〜〜〜 ・・・ またも微妙な音をたてて博士の自転車は街中に消えていった。
ぺたん。 自転車が見えなくなると すぴかはお稽古バッグを抱えてしゃがみ込んでしまった。
「 ・・・ は ・・・ぁ ・・・ こ こわかった ・・・ 」
すぴか自身 かなりの<自転車ぼうそう族> なのだが ― 博士の運転はそれどこじゃなかった・・・らしい。
「 あれ? す〜〜〜ぴかちゃん?? どうしたの〜〜 」
「 ・・・ あ サアちゃ〜〜ん う ううん なんでもな〜い 」
「 ? そう? なんか お顔、白いよ? 」
「 そ そっかな〜〜 お稽古すれば白くなくなるよ〜〜 いこ! 」
「 ウン♪ 」
仲良しのサアちゃんと一緒に すぴかは元気よくお教室に入っていった。
幼稚園の年長さんになったとき、 すぴかはこのバレエ教室に通いはじめた。
よちよち歩きのころから跳んだりはねたりがだ〜い好き、 そしてお母さんの舞台を一回見て
すぴかは決心してしまった。
アタシも お母さんみたくおひめさまを おどる!
それで お母さんにおねだりした。
お母さんはもう〜〜 大にこにこですぐに同じ町にあるお稽古場に連れていってくれた。
先生はお母さんと同じバレエ団でレッスンをしていたお友達だ。 けど ・・・
「 どうかびしびし注意してやってください。 ホント〜〜にお転婆さんですから 」
「 うふふ・・・ はい わかりました。 すぴかちゃん 頑張りましょうね〜 」
えり先生は お母さんよかず〜〜〜〜〜っと優しく笑った。
それからず〜〜っと すぴかはちゃんとお稽古に通っている。
ぐらん・じゅって とか ぐらん・ぱでぃしゃ とか 大きくジャンプするパが得意だ。
「 あ すぴかちゃ〜〜ん おそかったね〜〜 」
「 りりかちゃん〜〜 えへへ ・・・ おじいちゃまの自転車できちゃった〜 」
「 え おじいちゃんの? お母さんじゃなくて? 」
「 ウン。 お母さん、教えのお仕事だもん。 」
「 ふうん すぴかちゃんのお母さんってさ〜〜 すご〜〜くキレイだよね〜〜
お母さんじゃなくて お姉さんみたい〜 」
「 え そっかな〜〜〜 」
「 ウン。 ウチのママとはぜ〜〜んぜんちがうも〜ん 」
「 そ そう? 」
「 ウン。 ぜんぜん。 」
お母さんじゃなくて おねえさんみたい ・・・
友達の何気ない言葉が ちくり とすぴかの心を突いた。
「 ・・・ お母さんじゃないみたい ・・・? そう なの ・・・? 」
「 は〜い みなさん おはようございます お稽古はじめますよ〜〜 」
すぴかがどきん、とした時にちょうど先生がレッスン場に入ってきた。
「 せんせい おはよ〜ございます 〜〜 」
子供達は ― もちろん すぴかも! ― お行儀よくご挨拶をし ・・・
「 はい バーについて。 」
さささ・・・・っと皆 バーの < いつもの場所 > に ついた。
「 は〜い それじゃ 一番でドゥミ・プリエ〜 ドゥミ・プリエ〜 グラン・プリエ〜〜
して 前と後ろ〜 二番も同じで 横 横。 四番は ・・・ 」
いつもと同じに バー ・ レッスン が始まった。
すぴかも皆と一緒に 先生の言うコトを一生懸命に聞いて ― いるのだけど。
「 えっと ・・・ ゆっくり一回 はやく二回 ・・・で 前 横 うしろ・・・
おかあさんじゃなくて おねえさんみたい ね!
え!? ・・・ あのにゃんこの母さんも < お姉さんねこ > が
チビにゃん達の母さんになってくれた・・って書いてあった よね?
じゃ じゃあ ・・・・ やっぱアタシのお母さんはアタシのお母さんじゃ ない・・? 」
「 ? すぴかちゃん? どうしたの。 きもち悪いの? 」
「 ・・・え? 」
はっと気がつけば すぴかの脚も腕も止まっていた。
「 どうしたの? 」
「 ・・・ ごめんなさい せんせい。 きもちわるくないデス。 」
「 そう? それなら ほら・・・よく聞いて? はい〜〜 次は グラン・バットマン。
前 三回 一回やすみ、横 三回 一回やすみ。 はい おねがいします。 」
「 ・・・・ ! 」
すぴかはきゅっとお口を結んで バーを握った。
大好きなグラン・バットマン、う〜〜〜んと脚を高く上げたっ ・・・!
アタシのお母さんはっ アタシのお母さんだよ〜〜〜〜 !!!
「 はい いいわよ〜〜 すぴかちゃん、元気 元気。 みなさんも〜〜 はい
それじゃ反対側ね〜〜 」
ふう〜〜〜 ・・・ すぴかは大きく深呼吸をして反対側を向いた。
― 結局 その日のお稽古、島村すぴかさんは
「 ・・・ 〜〜〜〜もう〜〜〜 アタシってば〜〜〜〜 」 だった らしい。
「 せんせい ありがとうございました。 」
「 みなさん おつかれさまでした。 」
最後にご挨拶をした後で えり先生はちょっと・・・ってすぴかを手招きした。
「 せんせい ごよう? 」
「 すぴかちゃん なにかあったの? 」
「 え ・・・? 」
「 今日のすぴかちゃん いつものすぴかちゃんじゃないみたいだったわ?
なにかイヤなことでもあったのかな? 」
「 ・・・ あ アタシ ・・・ 」
「 お友達とケンカしたの? 」
「 ううん。 アタシ ・・・ アタシのお母さん ね 」
「 お母さん? すぴかちゃんの? お母さんがどうかなさったの? 」
「 あ ・・・ あの〜〜 そうじゃなくて アタシのお母さんはアタシのお母さんだよね? 」
「 ??? フランソワーズさんがなにか言ったの? 」
「 ・・・ な なんでもないデス せんせい、いっぱいまちがえてごめんなさい。 」
「 あら いいのよ。 でも なんかすぴかちゃん、元気ないな〜〜って思って 」
「 そ んなコトないよ〜〜 アタシ、 げんき! 」
「 そう? それならいいけど ・・・ 」
「 アタシ、げんきデス。 にゃんこのきょうだいといっしょ。 」
すぴかちゃ〜〜ん 一緒にかえろ〜〜 と声が聞こえてきた。
「 あ うん! せんせい さようなら〜〜〜 」
すぴかはぺこん、とご挨拶をして更衣室に駆けていった。
「 ・・・ にゃんこのきょうだい??? う〜〜ん?? まあ具合が悪いのじゃあないのね
ふふふ ・・・ あの後ろ姿ってフランソワーズそっくりだわあ〜〜 」
えり先生はしばらくクスクス笑っていた。
「 次は〜〜〜 岬入口〜〜 岬いりぐち〜〜 」
「 おります! 」
すぴかは慌てて停車合図ぼたんを 押した。
バスはあっと言う間にウチの坂の下の停留所まで来ていた。
「 ・・・っと ・・・ 」
とん! とステップから降りてお空を見れば ― もう随分と暗くなっていた。
「 わ・・・ はやくかえろっと ・・・ 」
うんしょ・・・ お母さんの手作りのレッスン・バッグを持ちなおした。
「 あ〜〜〜 海がきれいだあ〜〜〜 あ ふね ! りょうしさんのふね かなあ 」
せっせと急な坂道を登ってゆく途中で 右側にはど〜〜〜んと広い海原が見えてくる。
黄昏時、 沖合いには夜の漁にでてゆく船が何隻かみえた。
「 りょうしさん ・・・ お魚とってにゃんこの家族にあげるのかな ・・・ 」
またまた港のにゃんこ一家のお話が 心に浮かんできた。
「 ・・・ アタシとすばるがさ 待ってると ・・・ さ ・・・ 」
( 以下 すぴか嬢の妄想わーるど )
「 おかあさ〜〜ん お腹へったあ〜〜〜 」
「 僕もぉ〜〜〜 僕も〜〜〜 」
すぴかとすばるは 両側からお母さんに縋り付いた。
「 もうちょっと我慢してね・・・ すぴか すばる ・・・ 」
三毛の美人猫のお母さんはぺろぺろ・・・二人を舐めてくれる。
「 わ〜〜〜ん お腹すいたぁ〜〜 」
「 え〜〜ん え〜〜〜ん 」
「 泣かないで・・・二人とも・・・ あ ! 漁師さん達が帰ってきたわ! 」
「「 わあ♪ 」」
アタシ達は皆で海のすぐ側まで駆けていった。
「 お〜〜〜 きたか〜〜〜 今日はいっぱいとれたぞ〜〜〜 ほら! ご飯だよ! 」
ぽ〜〜〜ん ・・・ ! でっかいお魚が丸ごとひとつ、飛んできた。
漁師さんが投げてくれたのだ。
「 まあ まあ ありがとうございます。 さあ〜〜 あなた達 ごはんよ〜〜 」
「「 わあ〜〜〜い♪ 」」
お母さんは 大きなお魚を咥えるとアタシ達をつれてお家に戻った。
それで ・・・
「 さ こことここがいっとうオイシイの。 すぴか すばる、食べなさい。 」
「 うん! 」
すばるはすぐに お魚に齧り付いた ・・・けど。
「 お母さんは? 食べないの? 」
「 あなた達が食べ終わってから食べるわ。 ほら ここ、オイシイのよ、すぴか。 」
「 う うん ・・・ お母さんも食べようよ〜〜 」
「 いいのよ、すぴかとすばるがお腹いっぱいになったら食べるから。 」
「 う ん ・・・ 」
「 さあ ほら。 すばるはおいしそうに食べているわ。 これは鯵ね。 」
「 すぴか〜〜〜 オイシイよ〜〜 むぐむぐむぐ 」
「 ・・・ ん〜〜〜〜 おいし〜〜〜♪ 」
「 そう・・・よかったわねえ・・・ 二人ともお腹いっぱいたべるのよ。 」
アタシとすばるが お腹ぽんぽこりんになって < ごちそうさま > したら ・・・
「 二人ともお腹いっぱいになった? それなら少しここでお昼寝なさいね。 」
「「 は〜〜〜い 」」
アタシ達は 草の上にころ〜〜ん・・・ところがったのを見てお母さんはにこにこしている。
「 ふふふ ・・・ じゃあ お母さんもご飯にしようかしら・・・ 」
アタシは眠ったフリしてたけど ― お母さんはアタシ達が食べたお魚の残りのトコを
食べてた・・・ オイシイとこなんかもうないのに・・・
「 あんなにばくばくたべないで お母さんにもオイシイとこ、残しておけばよかった・・ 」
アタシはすご〜〜く反省して隣でぐうすぴ〜〜て眠っているすばるをつっついた。
「 すばる・・・ すばるってば! 」
「 く〜〜〜〜 すぴ〜〜〜〜 く〜〜〜 すぴ ・・・ うにゃあ? ・・・ 」
すばるはちょびっとだけ目を開けた。
「 ね! こんどからご飯のときにさ! お魚のオイシイとこ、お母さんに残そうよ 」
「 ・・・ にゃんでぇ〜〜 」
「 だって! お母さんってばいっつもアタシたちの食べ残しばっかじゃん 」
「 お母さん、いっぱい食べなさい〜〜っていうもん 」
「 そうだけど! でもね ッ こら〜〜〜 起きろ〜〜 」
パシッ !! アタシはすばるに一発猫ぱんち! を食らわせた。
「 ! ・・・ いった〜〜〜〜〜 おか〜〜さ〜〜〜ん すぴかが猫ぱんち したあ〜〜 」
甘ったれのすばるは まだご飯中のお母さんのトコに駆けていった。
「 ? あらあら・・・ 兄弟ケンカはだめよお〜 こっちおいで、すばる。 」
「 うん♪ 」
お母さんは すりすり〜〜 してきたすばるを優しく舐めている。
「 でへへへへ ・・・ 」
すばるってば しっかりお母さんのくっつき虫だ。
「 ここは日溜りで暖かいの。 お腹はもういっぱい? まだお魚があるわ。 」
「 それは! お母さんのでしょう!? 」
アタシは お母さんの側にすっとんでいった。
「 あら すぴか。 どうしたの、恐い声で・・・ え ナイショで教えて・・・ 」
「 ・・・ えへ ・・・ あ あのね お母さん。 アタシ お母さんだ〜〜いすき♪ 」
「 まあまあ ほほほ 」
お母さんは優しくアタシの内緒話を聞いてくれるんだ〜〜〜。
( 以上 すぴかの妄想・おわり )
「 ・・・ で お母さんとアタシとすばるは仲良く暮らすのでした ・・・
そうなんだよ うん。 ホントのお母さんじゃなくても仲良しなんだよ。
ウチとそっくり ってお父さん言ってたよね ― やっぱり ・・・ そうなんだ? 」
いつのまにかご門の前までやってきていた。
普段は長いな〜〜って思っている坂も あっと言う間だった。
キ ィ −−−− いつもは走って突破するご門をゆっくり開けた。
「 アタシとすばるも ちびにゃんこ達みたくチビっちゃいときにすてられてたのかなあ ・・・ 」
「 お帰り〜〜 すぴか! 」
いきなり お母さんが目の前に現れた。
「 へ??? 」
「 お迎えに行けなくてごめんね。 」
「 ・・・ あ ・・・ ううん いいよ 」
「 ね お稽古、間に合ったのでしょ? ねえねえ 教えて! おじいちゃまの運転って
・・・ どうだった??? 」
すぴかは お母さんをじ〜〜〜〜〜っと見つめた。
「 教えて〜〜 ナイショにするから 〜〜 」
「 ・・・ スゴかった ・・・ お母さん〜〜 」
ぽつっとそれだけ言うと すぴかはお母さんにぺと〜〜〜っとひっついてしまった。
「 あらあら・・・ どうしたの?? 」
「 ・・・ どうもしない 」
「 そう? じゃ 晩御飯の支度、手伝ってくれる? 」
「 ウン。 ― お魚? 」
「 あら お魚、食べたかった? 今日はチキンなんだけど ・・・ 」
「 チキン好き〜〜〜 」
「 そうよね〜 じゃ キッチンまでれっつご〜〜〜♪ 」
「 ウン! 」
すぴかはしっかりお母さんにくっついたまま、一緒に駆けだした。
お母さん お母さん ・・・ アタシのお母さん
・・・ ホントのお母さんじゃなくても 大好き〜〜〜〜
― どうやらすぴか嬢の大誤解は ますます強固なモノとなってしまった ・・・ らしい。
Last updated : 11,25,2014.
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********* 途中ですが
タイトルでお判りかと・・・ 【 島村さんち シリーズ 】 であります。
フランちゃんが読んで感泣していた猫の親子のお話から発生しました♪
にゃんこ話 『 アタシたちの母さん 』 は 本当のことで、
にゃんこ関連のサイトで読んで ・・・ もうもう感泣〜〜〜 (;´Д`)